「それでいい」
雨音が、夜の輪郭をゆっくりと溶かしていく。
止まない長雨は、なんだか世界に私ひとりだけが取り残されたような、静かな錯覚を連れてくる。
なんとなく寝付けなくて、台所に立った。
小鍋で茶葉を煮出し、たっぷりのミルクとスパイスを落とす。
湯気と一緒に立ちのぼるチャイの香りが、尖っていた心の角を丸く削ってくれる。
足元では、クロが小さく寝息を立てている。
この子がそばにいて、温かい飲みものがあって、雨の音を聞いている。
それだけで、今日という一日は完成していたのかもしれない。
特別な何かになれなくても。
劇的な明日が待っていなくても。
「それでいい」と、雨の夜が静かにささやいている。
4/4/2026, 3:11:41 PM