叶わぬ夢
幼稚園の時の夢はパティシエになることだった。
そもそも乳製品があまり得意ではないから、母から乳製品食べられないとなれないよと言われあっさりと諦めた。
小学生の時の夢は看護師だった。
親戚からの看護師は将来安泰だよという言葉を安易に信じて、卒業文集に将来の夢は看護師ですと書いた。
しかし自分が看護師に向いていない性格だと中学一年生の時に気づきすんなり辞めた。
そして中学生の夢は生徒会長になることだった。
急に夢がランクダウンしたように感じられたが、一方パティシエと看護師の時とは異なる自分の中の本気の夢ができたようにも感じられた。
立候補したのは私含めて3人。
ひとりはとても真面目で信頼できそうな天然パーマの男の子だった。
もうひとりはダンス部で友達が多いタイプの女の子だった。
私以外の2人は先輩からも後輩からも人気があったが、私は特に主要な部活に入っていたわけでもなかったから認知度が低かった。
そのため自分の負けはほぼ確定していた。
天パの男の子の応援演説者である子から
「なんで負けるって分かってるのに頑張るの?」
と言われた時は、
「可能性に賭けてみたいから」
などとカッコつけて返したが、内心悔しさと悲しさで溢れかえっていた。
そんな辛い選挙期間中にさらに辛いことが起きた。
生まれた時から一緒だった愛犬の腎臓が機能しなくなり死期が近いと言われたのだ。
遠い親戚のお葬式などに参加したことはあったが身近で死というものを感じる経験がなかった私は初めて味わう感情にどう対応していいか分からなくなった。
学校に行っている間に亡くなってしまったらどうしようと四六時中考えるようになった私は、学校で失敗することが増えた。
そして涙もろくなって感情が制御しにくくなった。
それでも弱い自分は見せたくなくて必死にいつもの自分を演じ続けた。
病院で伝えられた日から4日ほどたったある日、いつ亡くなってもおかしくない様子の犬を抱っこして最後の散歩に連れて行った。
橋の上でいつもなら気持ちいいと感じる風を肌で感じながら、犬に話しかけた。
「絶対に叶えて見せるからね」
と。叶わないことなんて自分が1番分かっていた。それでもやっぱり賭けてみたかった。
その日の夜中犬は亡くなった。悲しくて学校に行くのも億劫だったが、約束を果たすためにも私は涙を拭いていくしかなかった。
1ヶ月後、投票が行われた。
その1ヶ月間どんな結果でもいいくらい全力で挑んだ。初めてこんなに努力したと言っても過言ではない。
ただ、どんなに努力しようとも勝利の女神が私に微笑むことはなかった。
帰ってきてから両親にダメだった!と明るく行ってから、部屋に駆け込み亡くなった犬の写真の前で大泣きした。両親も私が表面上では明るくても内心は悔しいことは分かりきっていたから何も言わずにご飯を出してくれた。
あの選挙から何年もたった今。
私は叶わなかったあの夢を追いかけたことは何も後悔していない。思い出した時はいつもあの時全力で挑んだ自分を褒め称えている。
そして大人になった今でもいくつか叶わないような夢を持っている。私はこれからそれを叶えるために全力で挑むつもりだ。叶わなくてもいい、全力で挑んだことで得られる何かがある。私は生徒会選挙で会長という座よりも大切な考えを得ることができた。
叶わなかった時悔しい思いをすることも辛い思いをすることもわかっている。
それでも私は挑戦してみたい。
3/17/2025, 2:44:58 PM