スープ

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彼(セーターという名前なのだけれど)はひどく寂しがりだ。暑いなあなんて思って脱ごうとするとパチパチパチ。電気の力で私を離そうとしない。下ろした髪がボサボサになるし何よりピリッってしてさ痛いんだよ。気づいてるのかな。私がいないとどうしようもない自分の情けなさとか。気づいてないんでしょうね。いつも私のことしか考えてない。まるでストーカーのようよ。セーター。
そうは言っても外は寒いから出掛けるときは必ず彼を着てかなきゃいけない。パチパチパチ。ああ。また私に張りついてきた。しつこいなあ。それでもセーターを着なきゃ。外は寒い。襟に首を通して右手左手。パチパチ。まただ。ねえ。一体何回言わせるつもり。それでも着ている。温もりからは逃げられない。パチパチ。また。パチ。ねえ。パチ。ねえ。ねえ!もうやめてよ!

どれくらい経っただろうか。部屋から一切の音は無くなっていた。鼓膜が破れてしまったかと思った。遠くから救急車のサイレンが聞こえてそうではないことを知る。彼は無機質に佇んでいた。私の胴体を包み込んだまま。ほんとうに寂しがりなのはどっちなんでしょうね。まったく。あらい(愛らしいの略なのだけれど)繊維の目を弄くったまま私は生まれて初めて涙を流す。もう時間だ。はやく出掛けないと。外は寒い。風邪をひかないように気を付けよう。

11/24/2022, 12:45:07 PM