「貝塚っていうのは、大昔の人が食べた貝の貝殻を捨てた場所なんだよ」
「え、なにそれ。ゴミ捨て場だったってこと?」
汚ねー、と弟はぼやいて足元の小石を蹴り飛ばした。小石は僕たちの目の前の柵に当たり軽い音をたてて跳ね返ってくる。
「こら、やめな」
僕の言葉を無視して不貞腐れたようにしゃがみこむ弟。せっかく付き合ってやってるっていうのに、なんだその態度は。
夏休みも残すところあと一日。だというのに僕の弟は自由研究にまったく手をつけていなかったらしい。
その事実を知った母が朝から雷をおとしたが、本人はどこ吹く風、焦る様子は全くない。見かねた僕が自由研究の題材になるんじゃないかと、市内で最も大きな公園の隅にある貝塚に連れてきたのだ。
「ほら、写真撮れよ。あとはあそこの案内板に書いてあることを丸パクリすれば、それっぽくなるだろ」
我ながら適当すぎると思うが残り時間ではこれくらいが精一杯だろう。
未提出よりはよっぽどいいはずだ。
のろのろと立ち上がった弟が父から借りたデジカメを構える。
「なんで昔の人のゴミ捨て場なんかがすごいの?ただのゴミでしょ」
「その時代に生きていた人たちがどんな生活をしていたかが分かるんだよ。貝殻以外にも、石器や動物の骨なんかが見つかってるんだってさ」
「でもゴミはゴミじゃん」
やる気も興味もない。まあ、小学生に貝塚はちょっと渋すぎるか。
「今の時代のゴミ捨て場も一万年後には貴重な遺跡になってるかもよ」
「どうせ俺、生きてないし」
口を開けば文句しか言わないな、こいつ。
夏休み最終日を古代のゴミ捨て場で過ごす羽目になったのは自業自得だろうに。
「そうだ兄ちゃん、俺あと読書感想文と算数のドリルと絵日記が終わってない」
「……おまえ夏休み中なにしてたの」
さすがにそこまで面倒はみきれない。ため息をついて、この事実をいずれ知ることになる母の心配をすることにした。
「貝殻」
9/5/2024, 12:00:26 PM