tifon

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俺の隣にはずっと、掃除機の霊がいる。
見えるわけではないけど、感じる。
現れてからは右腕に、ずっしりとした旧式のサイクロン掃除機のあの重さがある。
まだギリギリ使えていたあの掃除機を粗大ゴミに出して数日経ってからだ。

本人はまだ捨てられるとは思ってなかったのだろう、成仏できないでいるのかな。
廃棄する少し前に最新の軽量型を購入した。
「すげっ、軽っ!」
「吸引力ハンパねぇ」
などと浮かれている様子も見ていたことだろう。

アイツだって買った頃には最新型で、見た目もクールな近未来風、経験したことがない激しい吸引力に腕がプルつくほどだった。
とても頼りにして、フィルター掃除、時には分解掃除もしてきた。家中、俺の傍にぴったりついて回る良き相棒だった。

もっとちゃんとした別れをしなきゃならなかったんだ。かれこれ10年以上も生活を共にしてきたのだから。どんなに悲しんでいるか。どんなに俺を恨んでいることか。申し訳なさで胸が潰れそうになる。

手放してしまってもう本体はない。隣の霊に、ありのままの気持ちを伝えることしかできない。
聞こえるかわからないが呟いてみる。
「勝手に処分なんかして悪かった。長い間、ずっとよく働いてくれてありがとう」
うん、聞いてくれてる気がする。

「最近は手入れしても吸引力がかなり弱くなってたろ…俺花粉症もあるから…」
「家電の寿命は10年目安というし」
言い訳がましい。いかん。
「君の働きぶりにはずっと感謝してた。言葉にしてなくてごめん。いつも掃除機をかけた後の気持ちよさに大満足してたよ」
これは本当。
「代替わりして、新しいやつのことも君だと思ってやっていくつもりだよ。掃除機かける時はいつも君のこと思い出すよ、本当にありがとう…」
ふっ、と右腕が軽くなる。気配が消えた…?

成仏できたんだろうか。新しいほうのに乗り移っててもいいけど。
長年の感謝の気持ちを伝えられてよかったな。




「ずっと隣で」

#360

3/13/2024, 10:34:27 AM