「これはごく限られた、目覚めた人しか知らないこの世界の秘密なんだけれど·····」
そんなことを真顔で言う彼に、こちらも至極真面目な顔をして問うた。
「目覚めた人しか知らない秘密をどうして貴方が知ってるの?」
「僕はその目覚めた人なんだよ」
「目覚めたってことは、今まで寝てたの?」
「えっ」
「私と出会って、友達になって、勉強や季節の行事や遊びや、色々していた時も寝てたの?」
「いや、それは·····」
「何に目覚めたの? 世界の秘密って?」
「この世界のあらゆるものを裏で操ってる組織があるんだよ」
「それを知ってどうするの? 会う人会う人みんなにその話をして、信じない人を見下して、バカにして、みんなと距離を置いたり喧嘩するの?」
「君もそうやってバカにするのか!?」
「バカにしてるんじゃないよ。〝目覚めた〟なんて、今まで私と作ってきた思い出や感情を愚かなこと、みたいに言ったのはそっちじゃん」
「·····そうだよ。僕がこんなに報われないのは、自分達の利益の為に世界を裏で操る奴等がいるからだよ。みんなソイツらに踊らされてんだよ」
「貴方がそう思うなら勝手に思ってればいいけど·····」
「なんだよその言い草は!?」
「世界に秘密なんてないよ」
呟いて背を向ける。
彼が何か喚いているけれど、私にはもう聞こえない。
世界に秘密なんてない。
誰も知らない秘密を彼のようなしがない一市民が知るわけがない。
〝誰も知らない〟とは本当にこの星に生きる誰もが〝知らない〟ことなのだから。
振り返ると、彼はもう小さな点になっていた。
体が溶ける。
不定形の、どろりとしたモノになったワタシは滑るように道を進み、壁を伝い、電柱のてっぺんに到達する。
「·····」
意識を集中させる。
翼が出来た。次は体。普通は逆なのだろうが構いはしない。胴体が出来、両腕、両足が生えてきて·····
「よいしょっ、と」
最後にポコンと、頭が出てきた。これでよし。
翼を二、三度はためかせ、ワタシは電柱から飛び立つ。
「さよなら」
ワタシという生命の正体に、ただの一人も気付かなかったこの星の人達。
見上げれば、この星をぐるりと取り囲む一筋の光の帯。
――あぁ、このラインも彼等には見えないんだっけ。
END
「誰も知らない秘密」
2/7/2025, 4:24:23 PM