【誰よりも、ずっと】
恋人ができたんだ。そう照れ臭そうに笑う君の表情は、とても幸せそうだった。
相手の名として告げられたのは、僕もよく知る響き。欠点を見つけるほうが難しいくらいに完璧な人の名前。あの人なら絶対に君を幸せにしてくれると、そう無条件に信じられるくらいに、とびきり賢くて誠実な先輩の名だった。
幼い頃からずっと、幼馴染として君と手を取り合って生きてきた。仕事人間でほとんど家にいなかった君の両親より、僕のほうがずっと長く、君と共に時を過ごしてきた。
この世界の誰よりもずっと、僕は君のことを深く知っている。朗らかに振る舞う君が腹の底に抱えた孤独も、君が何を好いて何を嫌うのかも、僕が一番に理解している。
……だからこそ、わかってしまうんだ。君と先輩の相性がこの上もなく良いことも、君が先輩と付き合えることを本心から喜んでいることも、全て。
「良かったね、おめでとう」
ずきずきと痛む心臓を抑えつけて、僕はそんなありきたりな祝福を口にする。ありがとうと笑みを深くした君の表情は、今まで見たどんなものよりもキラキラと輝いて見えた。
(君の幸せを、誰よりも祈り続けているよ。
たとえその隣に、僕がいなかったとしても)
4/9/2023, 1:23:41 PM