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眠りにつく前に

 これは誰にも話していないことだが、眠りと死の違いがうまく認識できない時期があった。目を閉じる。意識がなくなる。その後に目覚めるかどうかの違いでしかない。恐怖心はなかったが不満感はある。こんなことで死ぬなんて面白くない。
 だから共に寝る時は手を繋いで欲しいと眠りにつく前に告げたら、君は面倒くさそうにため息を吐いた。おいおい、ただ手を繋ぐだけだぞと笑い、まあこちらも本気で言ったわけではないから断られることも想定内ではある。
「早朝から騒々しく動き回っている奴が何を言っている」
 それは朝の話だろう。今は眠りにつく前の話をしているんだ。
「お前が起きなかったら、叩き起こしてやる」
 だから安心しろ、と言いたいのだろう。君はとても優しい。だからこそもっと聞いてみたくなってしまう。これは甘えだ。
 叩き起こしても起きなかったらどうする?
「……追いかける」
 どこまで?
「地獄の果てまで」
 こう言えば満足だろう、と呆れた様子の顔に書いてある。けれども冗談を言わない君はきっと、本当に追いかけて来てくれるだろう。
 今夜は安心して眠れそうだ。

11/2/2023, 2:20:18 PM