視線の先には
窓が開いた教室に静かに風が入り、カーテンが揺れ動く。
教室には数名、生徒がいた。友達同士で会話していたり、一人勉強していたり、本を読んでいたりと様々。
窓際に近い席に座っている少女が一人。窓の外の運動場をぼーっと見つめていた。
その視線の先には、サッカーボールを蹴ろうとするが、空振り。
そして、ステンっとその場で転ぶ黒髪の少年の姿。
「ふはっ、下手くそ」
少女は苦笑をこぼした。すると、少女に近づく一つの影が。
「また見ているの、レイリ?」
少女の頬に冷えた水のペットボトルを当てる茶髪でタレ目の少年。
頬に冷たいのが当たって、一瞬驚いた表情をした少女――レイリだが、すぐ真顔に戻る。
「うん、そう、悪い?」
「んー、悪くはないけど……」
「悪くはないけど、何かな、ラウハ?」
少年――ラウハから渡されたペットボトルを受け取って、蓋を開けて一口、水を飲むレイリ。
「見すぎるのもよくないかなぁって」
「あら、嫉妬しているの?私が、他の子に取られないか」
「別にそういうわけじゃ……」
クスクス笑うレイリに対し、めんどくさそうな表情をするラウハ。
すると、急に冷気が漂い始めた。周りにいた生徒たちが、寒いと次々に言い出す。
さっきまでいなかったはずの、黒髪の少年がレイリの前の机の上に、腰をかけて座っている。そして、ニコリと笑った。
「あー……ほら、視線に気づいて、来ちゃったよ」
「あら、こんにちは」
「こーらー、話しかけないの」
「別に良いじゃない、どうせ貴方が払うんだから心配ないじゃない」
「そうだけど……ってか、それが俺の仕事だからね……」
はーっと長いため息を吐くと黒髪の少年に視線を移す。
「キミはもうここにいちゃいけないんだー、黒髪の少年くん」
パチンと指を鳴らすと黒髪の少年に銀色の鎖が巻きついた。
そして、ずるずると地面へと引き摺りこまれていく。
黒髪の少年は何かを叫んでいるが周りには聞こえない。
そして、跡形もなく消えてしまった。
「任務完了ね、さぁ帰りながら、次の任務探しましょ」
席から立つとツカツカと教室のドアへと向かっていく。
「いや、早いし、俺疲れているんだけど……あー、もうっ‼︎」
ぶつぶつ文句を吐きながら、レイリの後を追うラウハだった。
「……いつもレイリさんとラウハくんは一緒だよね」
「なんか二人を見ていると寒気が急にするの」
「わかるっ‼︎レイリさん、いつも違うところボーって見ているし」
「ラウハくんはなんか急に顔が青ざめて、フラフラするから少し怖い」
教室にいた生徒たちがそう噂を話していた。
「レイリさんが見ている、視線の先には何があるんだろう?」
ちりーんと透き通った鈴の音色が教室に響き渡った。
7/19/2023, 2:48:12 PM