薄墨

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たった六文の年越し蕎麦を啜る。
今年も終わる。また一歳年をとる。

「良いお年を」はよく忘れてしまう。
話しているうちに、これが今年最後の出会いだということを忘れてしまうのだ。
代金を払ったり、近況報告をしたり、そういう、細やかなあれやこれやの前では、年が終わるだなんて大局的で大雑把なことは忘れてしまう。

そして、見送った後に、(良いお年を、と言えば良かった)と一人で反省をしながら、隙間風に身をすくめる。
最近の数日間はそうやって過ごしてきた。

きっと、ここ近年は、貧乏神や福の神にさえ、「良いお年を」を言い忘れているのだろう。
毎年毎年、改善もしないが、悪化もしない、そんな年末を細々と暮らしている。

そして、今年の決済をすっかり終えた後、屋台を呼び止めて、たった六文の年越し蕎麦を啜る。
年越しはいつもそう。
そして、屋台のおっちゃんにさえ、「良いお年を」を言い損ねるのだ。

蕎麦を啜り、かき揚げを齧る。
年末でも蕎麦は変わらず美味い。

いつもと同じ夜闇。
いつもと同じ蕎麦の味。
いつもと同じ屋台の色。

けれど明日は今日とは違う。
明日は新しい年が来る。

良いお年を。
そんな言葉と一緒に酒を飲む。

もうすぐ年が明ける。
今年が、終わる。

12/31/2024, 2:06:40 PM