「心、必、恋、念、惚、忠、偲、愛……」
「何念仏唱えてんだよ」
日誌を書く俺を待つ幼馴染はスマートフォンを覗きながら難しい顔をしている。
顔はこちらに向けず、いいからさっさと書けとでも言うようにサッサッと手を払われる。
何なんだと思いながら視線を日誌に戻す。
「今日昼休みに話題になったんだけどさぁ」
「んー」
「人の心はどこにあるのかって」
「お前らも深い話するんだな」
「バカにすんなっての!」
「いてっ」
半笑いで相槌を打ったのがお気に召さなかったらしい。
蹴られた脛が地味に痛む。
「んで、心臓にある派と脳にある派に分かれた」
「まあ定番だよな」
「でもなんかしっくりこなくてさぁ、心がある漢字をみてた」
どうやら友人たちとの会話もお気に召していなかったようだ。
スマートフォンから顔を上げ伸びをしている。
「心があるかも怪しい君に話してもねぇ」
「バカにすんなよ」
「ちょ、髪乱れる!」
憎まれ口を叩くヤツの頭を手のひらでグリグリ押さえつける。
俺の手から逃れ、怒った猫みたいな威嚇を受けながら質問される。
「じゃあ心はどこにあるの」
「俺の心はここかな」
手頃な紙がなく、日誌の端を破き漢字を書いて渡す。
「掌……?」
「読めない?」
「読めてるじゃん」
「調べてみな」
俺の心はそこにあるんだけどなぁ。
そういうと読み方を調べるためか、視線は素直にスマートフォンに向かった。
書き終えた日誌を持ち、もう一度その頭に軽く手を置いてから教室をでた。
「たなごころ……」
「ココロ」2025.02.11
2/11/2025, 2:49:35 PM