【 No.9 踊るように 】
甘い香りが鼻を掠める。
匂いを辿ってみると、清々しい青色の空を背景に、オレンジ色の可愛らしい花が咲いていた。
そういえば、もう秋だな。
窓からの隙間風が冷んやりしていて涼しい。
この季節になると毎年咲くあの花は、私と彼との思い出の
象徴だ。
「咲いてるね、金木犀。もう秋かあ〜。」
呑気に窓の外を眺めながら、彼は言う。
「そういえば、今年で5年目?」
確認するように指を折り曲げ数えていく彼。
何度か繰り返して確信をもてたのか、「早いねー」などと
嬉しそうに言う。
それを見て少し口角が上がるのを感じた。
いつまでも子供みたいに無邪気で、一途で、可愛らしい。
ふふっと空気が漏れたのを聞き取った彼は、此方をみて
不機嫌そうに頬を膨らませた。
「なんで笑ってんの!」
「いや、いつまでも変わんないなって思ってさ。」
何それ、なんて言いながらも嬉しそうにしている彼。
最近少し忙しくて構えてなかったから、今日くらい。
「ねえ、好きだよ。ずっと。」
少しだけ驚いたような素振りを見せたけど、照れたように笑って、私の肩を抱き寄せた。
金木犀の花が一輪、踊るように散った。
この先もずっと2人で、この景色を眺めながら、
こうして話せますように。
9/7/2024, 11:53:55 AM