徒花

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「涙の理由」

何気ない毎日、いつもの日常

その日もありふれた日常の一つとして、いつか忘れてしまう記憶の一部になるはずだった。

だから私もいつもと何一つ変わりない生活を送っていた

たわいない喧嘩も、言いかけて言えなかった言葉も、
八つ当たりしてしまったことも、いつものご飯も、
たわいない会話も、ゲームもスマホも、ありとあらゆるものが当たり前にあって、いつもと変わらない日常の光景で大切だとか幸せだとかそんな事、考えもしなかった。
 
でもある日突然、何の知らせもなく目の前にあったものが消え去った
まるで今までが夢で急に現実に引き戻された様に
当たり前にあったあらゆるものが
当たり前に存在しなかった。

突然、そう本当に何の前触れもなく崩れ去った当たり前をとてもとても欲しく思った。

親に何も言え無いどころか喧嘩したまま、
少し飽きるくらい食べ慣れていた母のご飯も、もう食べることは叶わない。
思い人のあの人に何も言えぬまま、姿すら見ることが叶わなくなった。
あんなに熱中していたゲームも依存気味だったスマホも
今ここには無い。
寝る間も惜しんでプレイしたゲームアカウントも何処にもない。プレイした証も、記録も。
ゲームアカウントがなければ私は時間を無駄に費やしていたのか、もっと良い使い道が出来たのではないか。
何より家族に「ありがとう」の一つも言えていない。
考えれば考えるほど後悔ばかりが押し寄せるが
今更だった。

消えてしまえば何もかも呆気なく、周りはさも何もなかったかのように動き出し、証は消されていく。

皆の中では日常の他人不運な出来事。
何事も無かったかのように日常が始まる中、
何の変化もなく時間が規則正しく流れる中、
私だけが非日常にいて、私だけが不規則だった
当たり前から外れて、知ってしまった事実。
あの生活があの当たり前が、どれだけ幸せだったかを。


10/10/2022, 2:25:48 PM