【秘密の箱】
静かな雨上がりの午後、古いアルバムを開いていた指がふと止まる。
幼い頃の自分が、小さな木箱を誇らしげに抱えて笑っている写真。
胸の奥がきゅっと疼き、忘れていた記憶が一斉に騒ぎ出した。
あの箱は、親友と二人で宝物を詰めて、公園の大樹の根元へ埋めたまま、いつかまた一緒に開けようと約束して、そのままのはずだった。
気が付けば外に出ていた。
濡れたアスファルトの匂いが風に混じり、夕暮れの薄明かりが道を照らしている。
公園へ続く坂道は、昔より少し急に感じた。
草に覆われた裏庭に着くと、迷いはなかった。
大樹の前で膝をつき、手で土を掘る。
爪に泥が入り込むことなんか気にならなかった。
コツンと指先に触れた硬さが、息を飲ませた。
その時、背後からふいに落ち葉を踏むやわらかな音に振り向くと、少し背が伸びた懐かしい影が立っている。
互いに言葉を探そうとして、先に笑みがこぼれる。
名前を呼ばずとも分かる。
会いに来た理由は同じだと。
箱の蓋を開ける。石ころや折り紙が、夕暮れの光を受けてそっと輝く。
肩が触れるほどの距離で並び、風に揺れる葉の音を聞く。
視線が合った途端、子供の頃の合図みたいに、ふたり同時にくすりと笑った。
胸の奥が久しぶりに跳ねる。
あの頃の気持ちは変わらず自分たちの中にあり、心に息づいている。
木箱を囲んだあの日と、何ひとつ変わっていない気がした。
10/24/2025, 9:32:43 PM