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「最悪」

何時いかなる時もベストを尽くす。それはこれからも変わらない。変わらないが、この状況をどうすればいい?

「ゆっくり楽しんでおいで」と、にこやかに妻を送り出し、しばらくは順調だった。6ヶ月の爽、3歳の澪、5歳の雫はみな機嫌よかった。澪は一人でおままごと、雫は絵本に夢中だ。爽は起きているがベビーベッドの中でにこにこしている。赤ん坊の笑顔ほど癒やされるものはないなあ。

爽の顔を見ながらうとうとしていたようだ。雫の叫び声で起こされた。澪が、雫が読んでいた絵本を取り上げ、ぽいっと放り投げた先で雫のお気に入りのプラレールに当たった。昨日、雫と妻が苦労して作り上げた労作だ。絶対に壊すなと妻に厳命されていた。

雫はショックで泣き出した。澪は悪びれることなく、今度はおままごとセットをひっくり返して大喜びする。壊すことが好きなのだ。壊すために緻密に作り上げる。すごい集中力で作り上げた後、一撃で壊す。きゃっきゃと喜ぶ澪を雫がにらむ。

ああ、癒やしは爽だけだ。が、爽の顔が変わってきた。口をすぼめ一点を見つめるこの顔は…「ブリッ」そうだよな、この顔は。

「パパうんち」
澪がトイレの前でズボンを脱ぎ始めた。
「今行く」
補助便座をセットし、一人で座るのを見守る。
「出たら言うんだ」とその場を離れ、爽のもとに。手早くオムツを替えてしまおうとベビーベッドへ。服のボタンを外しおむつのテープをはがした。おーっと、これは大量の軟便。左手で両足を持ち上げ、おしりふきで丁寧に拭き取る。

「パパ出た」
トイレから澪が呼ぶ。
「ピンポーン」とインターホンが鳴る。
「宅急便です」
はいはい、もうちょっと待ってね。新しいおむつをセットした。あとはテープを止めればいい。
「パパまだー」
「もうちょっと待ってて」
あー、爽の噴水だ。服もシーツも濡れた。
「お荷物でーす」
「雫、荷物受け取れるか?」
「うん、大丈夫」
ドアが開く。
「パパはんこは?サインでもいいって」
「パパまだ〜」

ああ、最悪だ。みんな頼むから待ってくれ。

6/6/2024, 12:22:32 PM