はす

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「ほら、泣かないで」
転んでしまって泣きじゃくる子供を、お母さんであろう女性が優しく慰めている。まだ幼くおぼつかない足取りながら、その子は立ち上がって再び歩き出した。

公園のベンチで辺りを眺めながら、ぼんやりと待ちぼうけをしている。その子供は再び元気に駆けずり回っていた。微笑ましいと思うと同時に、酷く羨ましいと思う。
泣くことは子供の本分だろう。子供はまだいい、でも大人が泣くのは、いただけない。泣くのはみっともない、と言う。泣くのを我慢するのが美徳なのか。枕を濡らして眠る、と言うけれど、一人の時ぐらいしか泣いてはいけないのか。だとしたら、なんて寂しい。

「あ、」
泣いていた事などけろっと忘れて、はしゃいでいたあの子供がまた転んでしまった。再びの大泣き。お母さんも慌てて駆け寄る。
「馬鹿な子ねえ」
お母さんは今度は「泣かないで」とは言わなかった。ただ、優しく抱きしめては、頭を撫でていた。
その子供が、泣きながらも酷く嬉しそうにはにかんだのを見た。

人前で泣く事は恥ずかしい事かもしれない。それでも、涙は勝手に出てくるものだ。人がいようがいまいが。そして、出来ればその涙を拭ってくれる人がそばに居ればどれだけ良いだろう。

日が少し傾く。あの子供は帰ってしまって、公園は静かだった。遠くから、人影が歩いてくるのが見える。
「ごめん、待った?」
待ち合わせ時間丁度。此方が早すぎただけの事だから、ううん、と首を振る。
「良かった。行こう」
歩き出すその背中を見る。もし、この人が泣いてしまった時、その涙を拭える人になれれば良いなと思った。

3/30/2025, 8:26:38 AM