鯖缶

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カシュッ。
風呂上がりのビールは頑張った自分へのご褒美だ。
愛用の座椅子にどかっと座り込み、ビールをグラスに注ぐ。グラスに満たされる黄金色の液体を見ながらも、目の端に入る一通の封書。
白い封筒の表には私の名前だけ、裏には《十年後の私より》と印字されている。
郵便受けに入っていた消印も住所もない異質な封筒。
(10年後っていうと35歳か…)
封筒をつまみぺらぺらと振りながら、泡の落ち着いたグラスに口をつける。冷えたビールが火照った体に沁みる。そのまま一息でグラスのビールを飲み干し、タンッと机にグラスを置いた勢いのまま封書の上部をビリビリと破り開ける。
三つ折りになった数枚の紙を取り出す。
恋人のこと、仕事のこと、離れて暮らす両親のこと、もしかしたら地球規模の天変地異とか…様々なことが頭をよぎり、紙を開く手が微かに震える。
目をつぶり、大きく息を吸って、吐く。
開いた手紙は印字の横書きだった。
《10年前の私へ》
そのまま読み進めていく。
《私は今、とても幸せに暮らしています。それは不幸のどん底にあった私を救って下さったとある方との出会いがあったからです。この手紙もその方のお力で届けることができています。この手紙を送ったのはもっと早くこの方と出会えていれば不幸な思いをすることもなかったはずと深く後悔したからです。その方に》
私は読むのをやめ、重なった他の用紙に目を移す。
ツルツルで厚みのある光沢紙には温かい笑顔を浮かべた栄養状態の良さそうな壮年男性、水晶のブレスレット、金色の置物…。
「詐欺かいっ!!」

次の日、警察に届け出た。

2/16/2023, 12:44:19 AM