あれから一年が経った。お前が冷たくなって帰ってきてから、一年。街は、一年前と変わらない夏景色に変わっていた。色褪せた商店街の看板に、日陰に集まった野良猫たち。山の方から響く蝉の声も、溶けかけたアイスの味も、何一つとして変わらない。ただ、一つを除いては。学校でも、帰り道でも、何なら家に着いたって。隣の見晴らしが良すぎて落ち着かない。前はウザいとさえ思っていたあの温度が、今は恋しくてたまらない。
「……勝手に居なくなるなよ……」
部屋で一人、ベッドにうずくまる。お前が居なくなっても変わらず回り続ける季節が怖くて仕方ない。街中に散らばったお前の陽炎が目に付く度、隣の空虚さが胸を確実に引き裂いていく。お前と過ごした時間が長すぎたせいで、この街で俺だけが立ち直れない。あの光が潰えてしまった事実が、うずくまった俺の背に重くのしかかってきた。
「……一人に、しないで……」
ベッドに染みを作りながら絞り出した声は、鼻声な上に震えていて、みっともない。お前が聞いたら、笑い飛ばしてくれたのだろうか。
蝉が鳴いていた。あの夏に囚われて進めない俺を、嘲笑うかのように。
テーマ:8月、君に会いたい
8/1/2025, 10:20:08 AM