燈火

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【手を取り合って】


同じ日に生まれた、うり二つの僕ら。
ほんの少しの時間の差で僕は弟になった。
活発で明るい兄にはいっぱい友達がいる。
置いていかれないように、僕は走って追いかけた。

顔は見紛うほどにそっくりだけど、他はまったく違う。
誰にでも話しかけに行く兄と、もらう言葉を返す僕。
お母さんに頼られる兄と、心配される僕。
どうして僕は兄みたいにできないのだろう。

小学生から中学生になっても、僕らは並んで登校した。
それはお母さんの言いつけで、僕を一人にしないため。
兄が僕に歩幅を合わせるから、なんだか申し訳なかった。
優秀な兄と、そのおまけ。噂は波紋のように広がる。

ほんの少し先に生まれただけの兄は大人びている。
好きな子ができたんだって。こっそり教えてくれた。
頬を染めて、父さんと母さんには内緒だぞって。
「お前はいないの? そういう相手」知らない人みたい。

告白は成功したらしい。
兄に、放課後の教室に呼び出され、顔合わせをした。
好きになるなよ、なんて。不安なら紹介しなくていい。
僕は存在感を消すことがうまくなっていった。

あの頃、何度でも追いかけたのは振り返ってくれるから。
必ずどこかで止まって、待っていてくれた。
彼女がいるとき、その隣を歩く兄は僕を気に留めない。
僕はもう、走ることに疲れてしまった。

別の高校に進学して、家の外では滅多に会わなくなった。
俯いて歩いていたら、校門前でよく知る声が耳に届く。
「一緒に帰ろうぜ。久しぶりに寄り道でもするか?」
止まって、振り返って、今度は戻ってきてくれた。

7/15/2023, 8:46:49 AM