「ごめんな」
病室の一角。私の恋人は不意にそう言った。
どうして急にそんな事を言い出したのかは十分理解できた。
恋人は末期の難病で、もういつ彼方の世界に逝くのか分からない状態だった。
「僕が死んでも悲しまないで。新しい恋人を作って結婚して、子供を作って幸せになって欲しい」
弱々しいその声に私は俯くしかなかった。
「さよなら、だ」
それが死期を悟った恋人の言葉。
「さよならは言わないでよ!」
思わず大きな声を出してしまった。だけれどその声は震えていて。
恋人は少し驚いたように目を丸くしたあと穏やかに笑った。
「…ごめん。じゃあ…もしも僕が生まれ変われたら…」
"今度は君を絶対に幸せにするから"
そう言って彼は深い深い、一生目を覚ますことのない眠りについた。
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さよならは言わないで
12/4/2024, 9:26:35 AM