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▶98.「静かな夜明け」
97.「heart to heart」
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1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
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「旅人さんてのも、案外慌ただしいもんなんだねぇ」
「行きたい場所があるんだ。それに冬も、もうすぐ終わりだ。今のうちに色々見て回りたい。そうしたら春にまた来た時、違う景色を楽しめるだろう?世話になった」
「ほぉ、ほぉ。なるほど、なるほど。良ければ、また来てくださいねぇ」
「ああ、きっと来るよ」

ナトミ村を後にした人形たち。

「さて、方角は北北西だな。首都の先といったところか」
「ネェ、何カ振動ヲ感ジル」
「どんな?」
「トットットットッ、テ。ダンダン大キクナッテル」
「馬だな。こっちに向かってるんだ」

砂埃を避けるため外套のフードを被って歩く。
やがて、4騎の馬とすれ違った。

「国境の入国審査をしてた人間と似た制服だったな」
「ナトミ村ニ行ッタミタイ」
分かれ道を北に進む。
ちょろっと出てきたナナホシが肩越しに後方を確認していた。
「この国は、軍の活動が活発なんだな。しばらく行って、人間の姿が見えなくなったら街道を外れよう」





「もう出発した?」
「ええ、洗濯が乾いてすぐに。オリャンを良い匂いと言ってくださってねぇ」

あなた方もどうです?のんきな主人がオリャンを差し出してくる。
班員の中でも温和なやつが上手いこと言って断っているのを横目に、
ヒソヒソと作戦会議をする。

「一歩遅かったか。もう少し早く馬をもらえればな」
「気づかなかっただけで、すれ違った中にいたかな」
「村のすぐ近くに分かれ道があったろう。そっちに行った可能性も」
「戻ったよ。徒歩らしいから、そう遠くには行ってなさそうだよ」

「よし、分かれるぞ。二人は北の分かれ道へ。俺は戻りながら該当者を確認、いてもいなくても隊長に現状を報告する。班長も戻っている頃だろう」
「わたしは?」
「お前、絵が得意だったろう。あの主人から人相を聞き出して似顔絵を描いてくれ」
「やってみる」
「よし、散開」





「そろそろいいだろう、ナナホシ、誘導を頼む」
「分カッタ。ナビゲーションモード、開始」

道を外れ、北北西へ進路を取った人形たち。
その姿が木々に隠れた後、
2騎の馬が街道を走り抜けていったが、人形にも、ナビゲーションモードになっているナナホシにも、その蹄の音は届かなかった。


天気も良く、人形の足は効率的に歩みを進めていく。
春になったら会いに行こうと思っている人間がいる。
何よりナナホシの体が気になる。

その思いに味方するように、天候に恵まれる日々が続く。
周りに人間もいなければ道も無い。
自然のざわめきだけが、人形たちの耳に届いていた。

ナトミ村を出発して何日か経った、
昼の動物、夜の動物、双方が寝静まる夜明け前。
植物のざわめきも、風が凪ぐことで止まった。

しん、とした静けさに、
人形たちは自ずと動きを止めて、じっと東の空を見つめた。

白み始めた空を、
無音で太陽がのぼっていく。

静かな夜明けであった。


無音の空間を風が裂いていく。
息を吹き返すように音がよみがえり、
鳥が鳴き始める。

「おはよう」
「オハヨウ」


回り始めた営みに、人形たちも足を踏み入れ、
再び歩き出したのだった。









「ご主人、今度こそ、これでどうですか」
「うーん…何か違うなぁ、パーツの数は合ってるんだけどな。それにしても姉ちゃん絵が上手いなぁ」
「も、自信なくしましたぁ…」

2/7/2025, 9:33:55 AM