芯まで冷えた体。湯船に浸かると、血の巡りが良くなるのが感じられた。
年末年始と、類を見ない程の寒波が重なり、想像以上の仕事が立て込んでいた。移動都市の性質上、街と街を跨ぐのも簡単ではなく、連絡を取り合いながらなんとか配達を終えた。
「ゆず湯だっけ……すごくいい匂いだし、いつもより温かい、かも?」
「ネイもそう思う?」
「うん……って、ジル、なんでいるの?!」
背後に彼がいた。気持ちよさそうに耳を畳み、私を抱き寄せてくつろいでいる。
「潜伏してたんだ。すごいだろ?」
「すごいけど!びっくりするから本当にやめてね……」
「ごめんごめん。でもほら、今日で仕事納めでしょ?そう思うと興奮しちゃってさ」
心の底から楽しそうに笑っている。だいぶ落ち着いてきたんだな、と私は安心した。
「お疲れ様、よく頑張ったね。上がったらマッサージしてあげるよ」
『労いの湯』
お題
「ゆずの香り」
12/23/2022, 10:07:19 AM