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沈む夕日。届かない声。これはブラコンな私のとあるお話である。

私は兄が大好きだ。いつもじゃれあって、いつも仲良し。当然のこと。だが、周りはそうではないらしい。じゃれ合わないどころか、口も聞かないことが多々あるそうだとか。私たちは特別なんだと、ずっとこのまま続くんだと思っていた。
それは間違いだったらしい。兄は、この街を出て、この県を出て、望む大学に行く。私は兄の望む事だから素直に認めた。これからの日々を大切にしていく他ないと。私はその日から兄と長く居られるように時間を調節した。毎日少しずつ時間が長くなって私は満足していた。早く家に帰れば兄と一緒に走りに行った。たくさん散歩もした。
沈む夕日に向かって歩く兄に私は呟いたんだ。

ー隣町の大学とかじゃダメなの?行かないでー

私の声は届かなかった。けれど、兄は私に振り返ってくれた。それだけで十分だった。ずっと、このままだったら…良かったのに。
そして兄は旅立った。私も兄のアパートまで見送った。引越しの準備も手伝った。別れの時は不思議なほど、涙が出なかった。兄がいなくなって、私が使うことになった部屋。私も自分の引越しをすることにした。兄の部屋に私のモノが溢れていく。私の部屋になる。兄の部屋には何も残ってはいなかった。ゴミひとつさえ残してはいかなかった。残っていたのはただただ嗅ぎ覚えのある私の大好きな兄の匂いだけ。こっそりと私の机に飾ってあった兄との写真。兄の姿を見ると今もまだ涙が止まらないんだ。

4/7/2023, 10:34:38 AM