「夏! ……といえば何かね後輩くん?」
部室に来て早々、先輩が仁王立ちで私に問いかけてきた。
先輩はほとんどの生徒と職員が認める変人ではあるが、二人しかいない文芸部をどうにか存続させているすごい人でもあるのだ。
でも尊敬はしていない。だって変人だから。
「はあ。夏……ですか」
「そう! 夏だ。
スイカか? かき氷か? それとも冷やしあめか?」
「なんで食べ物ばっかりなんですか……
花火とか猛暑とかゲリラ雷雨とかじゃないんですか?」
「ふむ。君はそれらが夏だと思うのか。
なるほど、君は空に着目するタイプのようだな」
うんうんと一人頷いて納得している先輩に私は気まぐれからこう聞き返した。
……それを後悔するとも知らずに。
「先輩は何を夏だと思うんですか?」
「む、私か? 私はな、ゴキが家に出た時だ」
「……は?」
「正確にはチャバネ」
「言わなくていいですっ! 正式名称なんか!」
私がそう叫ぶと先輩は少し首を傾げて、なるほど君は彼奴が嫌いなのだなと呟いた。
「ブラッ◯キャップやらホイホイやらを仕掛けているが、毎年のように彼奴を見かける。
やはりバル◯ンをした方が良いのだろうと思うが、いかんせん家電などにカバーを掛けるのが面倒でな……
まあ、彼奴を見かけたら夏の気配を感じるから私にとっては一種の風物詩だな」
「そんなまっっったく雅じゃない風物詩嫌ですよ……
というか先輩、そいつが夏だと思ってるんですね」
「何か問題でも?」
あっけらかんと言う先輩に私は何も言えなくなって、もうそれでいいです……と力なくうなだれた。
……やっぱり先輩って、変人だ……
6/28/2025, 12:38:26 PM