ぼぼ

Open App

 旅路の果てに、たどり着いた場所には何も無い。
 旅なんて本当は出たくなかった。
 けれど現実が辛くて、逃げ出したかった。

 逃げるために我慢した。努力した。
 その先に今よりましな未来があると信じた。

 たくさんの人と出会い、喧嘩して、時には別れた。分かり合うために自分を殺してみたりもしたが、心が壊れると体も壊れるので止めた。
 けれど壊れた心はなかなか治らない。自分のことが分からなくなって、目的地が分からなくなって、生きている意味に悩んで足が動かなくなった。ただ、こんなのは初めてじゃない。だから耐えた。耐えてみせた。もっと辛いことを知っていた。

 失敗を知り、経験を積むことで、最後には失敗のない人生が待っているなんて。そんなことを本気で信じていた。人生をゼロにもどして、やり直せるなんて。
 なのに、未だに私は失敗し続けている。
 思うように体は動かない。好きなことは楽しめない。人への興味もすっかりない。
 ただ、思い知っただけ。
 なにもない。全ての人間と分かり合えるわけじゃない。私の理想は、理想でしかない。それに、私が望むのはそんな生易しい世界じゃない。

 それが、長い旅で得たもの。

 楽しかった記憶より、辛かった記憶ばかりを思い出す。また同じ過ちを繰り返さないように。苦しまないように、傷つかないように。

 また引きこもりたくなる私を、けれど旅で得た仲間が引っ張り出してくれる。
 もう頑張りたくないのに、頑張らせようとしてくる。
 止めたい。苦しい。終わらせて。
 取り繕うのはもう辞めた。
 とっくに限界は超えている。諦めたい。

 けれど、心は何故か死んでいない。
 なぜ私は頑張るのだろう。
 人の優しさに、涙が出る。
 ありのままの自分を受け入れたから、人の優しさが染みてしまう。嬉しいけれど、それがこんなに苦しいのなら、心なんて壊れたままでよかった。仲間なんて作らなければよかった。
 当然嫌う人もいる。けれど、そんな人は私も大抵苦手。だから私を傷つける人だけが去っていく。
 居心地が良くなってしまう。
 だから私にはやるべき事があるなんて思っていた。
 大切な人を幸せにしなければいけないなんて、傲慢で大それたことを思っていた。
 けれど、そんなものはない。色んな人に会って、色んな人の考えに触れて、生きている意味なんてないことを知った。

 だから私は、好きなことをして生きていく。

 旅なんかもうしない。
 旅がしたかったんじゃない。
 帰る家が欲しかった。
 理想の家じゃなくて絶望して、逃げ出したかっただけだ。
 だって逃げるしかなかった。向き合うことは、崖のように高い壁だったから。これ以上頑張りたくなかったから。

 けれど結局、私は向き合う所まで帰ってきた。 
 旅で得た知識で、高い壁は頑張れば登れるくらいにはなっている。けど、頑張ろうと言う気持ちはあまり残ってはいない。
 だから、その壁に背を預ける。登らない。頑張らない。
 壁そのうち壁の方が低くなって、少しだけ期待するけれど。でも、もう階段も登る気力も戻ってこないだろう。

 だから、この壁の内側。ここが私の帰る場所。
 暖かくて優しい場所じゃない。それが現実。
 
 もう、それでいいや。

 





 

1/31/2023, 1:25:10 PM