かたいなか

Open App

前回投稿分からの続き物。
最近最近の都内某所、某しっかり整えられたキャンプ場に、ツバメというビジネスネームの管理局員がテントを張りまして、
なにやら相当に疲労した様子で、ノンカフェインのコーヒーをすすっておりました。

テントの横には荷物運搬特化かつ、オフロードもそこそこ対応できるように整備されたバイク。
複数台所有するツバメの相棒のうちの1台です。

はぁ。 ぽんぽん。
ツバメは大きなため息を吐いて、相棒のおなかを優しく叩きました。
ツバメのアウトドアライフは、バイクと出逢って、良い方向に変わりました。

ああ、ああ、君と出逢って、
私はどれだけ多くの川と山と林と高原と以下略に、テントと焚き火を置いたろう。
君と出逢って、私は何度、君と一緒に湯を沸かして、コーヒーをすすったことだろう。
ツバメは再度、ため息を吐いて、
そして、ノンカフェインの香りを吸い込みました。

何が酷いって
前回投稿分でツバメは
自分の弱みを握った相手に
口止め料として至高のコーヒーと軽食セットとスイーツとを間違いなく提供したのに
相手が「マン『デ』リン」と「マン『ダ』リン」を間違えたその一点だけで、
ツバメは本当に、酷い目に遭ってしまったのです。

しかも最終的に「美味いなこの、シトラスシロップ入りのマンデリンコーヒー」と、
酷い目に遭った理由のすべてがリセットされて、ツバメの理不尽なハプニングが完全に、無かったことにされてしまったのです。

「ひどいよな。 ……ひどいよなぁ……」
はぁ。 ツバメは3度目のため息を吐きました。

「ひどい?たたる?たたる?」
ツバメのキャンプに勝手についてきた稲荷子狐が、ハンモックをぐりんぐりんに揺らして言いました。
美味しい犬用干し鮭ジャーキーを、あぐあぐ、あむあむ、ちゃむちゃむ。幸福に堪能しています。
「いっかい、いっせんまんえん!たたる?」

「簡単に祟る呪うと言っちゃいけません」
ズズッ。ツバメがコーヒーを飲みながら、干し鮭ジャーキーの1本を焚き火で軽く炙ってやると、
コンコン子狐、すぐに香ばしい香りに気付いて、耳も尻尾も、ピン!目もキラキラ!
お手とか伏せとか言えば、秒で反応しそうな鋭利さで、ツバメのジャーキーを直視しています。

「キツネ、たたれる。キツネ、チカラある」
「チカラは、使って良い場合と、使ってはダメな場合が、存在するのです」
「なんで?なんで?キツネ、できる」
「『できる』と『やって良い』は違うのです」

「おじちゃんジャーキーちょーだい」
「炙って熱いから少し待ちなさい」

ジャーキージャーキー!
尻尾ブンブンで、ポテッ。
子狐は炙られた美味、付与された手間の贅沢、君と出逢って、もう我慢なりません!
ハンモックから飛び出そうと、布をあんよで力強く押し蹴りましたが、
うまくチカラが伝わらなくて、そのままフカフカな地面に、落っこちてしまいました。

それはそれで楽しいのです。
子狐は落ち葉や見頃を終えた花びらで、ぴょんぴょん、遊び始めました。

はぁ。 ツバメはまた、今度は親心のような息を吐いて、子狐を見守ってやりました。

5/6/2026, 4:02:49 AM