のなめくん

Open App

昨今の男女間というのは、どうにもフラットなものばかりが求められているような気もする。誰と話していたの、なんてほんの少しの嫉妬心を見せれば"束縛"などと言われ、手作りの、それも形に残るものを贈れば"重い"などと言われる。かつてはみんなの憧れであった手編みのセーターなんて贈れば立派な重力女の出来上がりだ。

今の彼氏は、嫌いではない。というか好きだ。でないと付き合ってられない。まあまあ長く続いていると言うことは、少なからず好きという気持ちがあることになる。少なくとも、私はそうだと思っている。
普段は大人しいけれど、ロマンチックな雰囲気になれば愛を囁いてくれる。人混みではぐれないように、自然と手を繋いでくれる。素っ気ない普段の態度が、ギャップになって、ますます好きになって目で追ってしまう。だから、気付いてしまう。

バレンタインデー、手作りのチョコを贈ったときは素直に喜んでくれた。誕生日、いつもより豪華な――といっても大学生に出来るくらいのだが――食事と、ペアブレスレットを贈ったときも、少し困惑しつつも喜んでくれた。クリスマス、手編みの手袋を贈った。彼は、一瞬戸惑いと、そしてほんの少しの嫌悪感を滲ませて、けれどそれを取り繕って喜んでくれた。

だから、気付いた。気付いてしまった。私は、他人から見れば重いんだなぁと。私の価値観は、今の社会にはそぐわないんだと。
だから、彼から別れようと告げられたとき、驚きは無かった。すとん、と胸の中に落ちた。彼は、どこまでも優しかったから「彩夏は悪くない、おれの問題なんだ」と言ってくれたけど、それは絶対私の問題だった。

それから、二人の男と付き合った。大学生なんてバカばっかりだ。ノリと勢いだけで生きてるから、直ぐに付き合って別れてをする。私はそんな馬鹿にはなるまいと思っていたけど、どうやらバカになっていたらしい。
二人には重い側面を見せないように、サバサバした、それでいてどこか可愛げのある女の子をしていた。けど、長続きはしなかった。直ぐに疲れてしまった。そして、私から振った。


「私、何が悪いんだろぉ。いいじゃんかぁちょっと位重くたって。大好きの裏返しだろー?」
「はいはい、彩夏はいい女よ。ていうか重いとか体軽い私への当てつけか?この隠れ巨乳め」
「そういう話じゃなぁい!」

クリスマスイブ。今年は彼氏もいないから、友達の茉優と宅飲みをしていた。最初は当たり障りのないくだらない会話。段々とプライベートな話。そして、いい感じに酔いも回ってきて、代わりに呂律は回らなくなってきた今、私は溜まりに溜まった鬱憤を茉優にぶつけていた。

「いいじゃん手編みのセーター贈ったってぇ。わぁしの作ったもの着ててほしい!重い女のほうが浮気しないし家事だって出来るいい女だもん!」
「そうねぇ、あと二十歳超えての『もん』はキツくない?」

私は下戸だ。そのくせ酒好きで、それでもって酔っていた時の記憶を完璧に覚えているのだから、次の日に悶えることも多かった。
だから、というわけではないが。この日の選択は、きっと酔っていたからだ。

「はい、そんな彩夏にプレゼント」
「ん?あぁ、ありがとぉ。……あっ、わらし何も用意してなくない?」
「私に聞かれたって分かんないわよ。それより、中身見て頂戴」
「ぁああぁ茉優ごめんねぇ、何も用意してないダメダメ女でぇ」

クソだるい絡みをしながら、覚束ない手付きで丁寧な包装を破かないように開けていく。……ちょっと破けたのは必要経費だ。

「んぁ?お洋服?」
「そ、いいでしょ」
「うん、ありがとおねぇ……これ、手編みぃ?」
「……そうよ」

酔っていたときの記憶が正しければ、その時茉優の顔は赤くなっていたと思う。多分、私の顔も、酔いなんかじゃ説明つかないくらい。

「ね、彩夏。プレゼント、彩夏も頂戴?」
「だからぁ、わたしは用意してなくってぇ」
「いいから、目を閉じて」

言われたとおりに目を閉じる。何をされるかは、何となく、いやはっきりとわかっていた。なのに、拒まなかった。
唇に、柔らかくて、熱くて、ほんのちょっぴりレモンサワーの味がする、なにかが触れた。

「ねえ、彩夏。なんだか、暑くなってきちゃった」

軽い男が言いそうな台詞を、重い女が言ってきた。なんだかおかしくて、少し笑いながら、二人して一枚一枚服を脱がせていった。二人の影が、一つに混ざり合っていった。




「はいこれ、クリスマスにプレゼントできなかったから、バレンタインにまとめてあげる」
「……クリスマスには彩夏の大事なモノ貰っちゃったケド」
「はいこれ、クリスマスにプレゼントできなかったから、バレンタインにまとめてあげる」
「……ああ、はい。これ、今開けちゃっていい?」
「ん、もちろん。早く開けちゃって」


「この激重女め」
「お互い様でしょ」

11/24/2023, 12:21:32 PM