一尾(いっぽ)in 仮住まい

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→遠い遠い記憶

私の通学していた高校は郊外にあった。美術室だが進路指導室だかの窓にぶつかって死んだキジを鍋にして食べた教師が居たとか居ないとか……、そんな噂が流れるある意味のどかな高校だった。

私は自転車通学をしていた。
風を切って、国道やら川を越え、池や田畑を横目に自転車を漕ぎ、ラストにキツい勾配の長い坂道。
学校の校門はこの坂の先にあった。生徒たちはこの坂をえっちらおっちら登ることになる。

一年に二度三度、私は通学路の夢を見る。そして、夢の中の私が高校に到着することはない。
最後の難関の坂道を嫌って森の中に迂回路を探すこともあれば、山を越えて通学しようと悪戦苦闘することもあった。ちなみに現実には森の迂回路もなければ、越えるような山もない。
最終的にいつも遠くに高校を見て目を覚ます。

理由はよくわかっている。
高校3年間が私にとって快適ではなかったからだ。座右の銘でもないのに、勝手に孤独が私の横に居座ってしまっていた。ソイツを跳ね除ける勇気も愛嬌もない不器用者。楽しい思い出は数えるほどもない。高校生活のことはあまり思い出したくない。だから夢でも学校内に足を踏み入れないのだろう。なかなかに執念深い性格だ。

高校を卒業してから何年も経っている。個人の記憶とは恐ろしいもので、記録ではないから自分勝手に補正する。夢で見る通学路のように、ありもしないものを付け足したり。
案外と私の高校生活は本人が思うよりも楽だったかもしれないし、その反対かもしれない。
一度、実際に自転車に乗って、かつての通学路を巡ってみれば、何か再発見があるだろうか?

……うひょー、ネチネチとカッコつけちゃってねぇ。世の中そんなにロマンチック且つ都合よくできとりゃしませんがな。

テーマ; 自転車に乗って

8/14/2024, 5:15:20 PM