ドルニエ

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 自分からにじみ出ているものの雰囲気で、それは自分が恋ではなくなっていたことに気づいた。それが恋でいることで心は甘く苦しみ、思考に命令をして考えさせ、思考は渋々それに従う。
「いくら時間をかけて考えてもよ、心のやつのひと言で全部ご破算になるんだからやってられないよ。裁判所に話をもっていってやりたいくらいさ」
 思考がこっそりこぼしていく愚痴は、それにはよく分からない。気持ちである恋、だったものには複雑だったり抽象的な言葉はないからだ。思考はそれを承知でしばしば愚痴をこぼし、そして心から大目玉を食らう。よせばいいのに、と気持ちは思うのだが、それでも何度も来るということは、思考も吐き出さないとやっていられないのだろう。
 恋だった気持ちは、では今の自分は何なのだろう、と思う。喜び?悲しみ?失望?憤怒?他の気持ちたちもどんどん変わり続けるから、すれ違う相手がなんなのか、気にしないようになっていた。ただ、この宿主の気持ちはずいぶん減っているように思う。以前――どのくらい前かは分からないが、気持ちはもっと多かった。今はもう、半分くらいの気持ちはどこかで休んでいるようだ。人間であれば羨ましいとか、妬ましいとか考えるのだろうが、元恋のそれには休むという発想はない。ただただ自分であり、その時々の気持ちの役割を果たすだけなのだ。
 心のなかをふわふわ漂っていると、心が虚しさを訴えはじめるので、自分の今の姿は虚しさなのではないかと思った。気がつけば、まわりの気持ちたちも自分と同じようなものをにじませている。
 そうか、虚しいのか。気持ちはまた思考が愚痴を言いにくる気配を感じ、ほんの少し眠たさを覚えた。

6/4/2024, 4:36:26 AM