ナナシ

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『風に乗って』

 この身体が羽のように軽ければ、それも良いと思った。
 差し伸べられた温かな手を取って、優しく微笑んでくれるだろうお前とふたり。遠くて知らない場所で静かに生きることも、悪くはないだろう。
 けれども。もう、遅いのだ。
 切れぬ縁は鎖となって私を縛り付けた。泥にまみれた身体は重く、焦がれた空は遠い。あとはこのまま土へ還るを待つばかりの私に、風の音は聞こえない。
 自由を唄うお前には分かるまい。翼ばかりが立派なお前には、理解りようがあるまい。
 この土地で生きると決めた女はもう、小鳥ではないのだよ。

4/29/2024, 1:42:00 PM