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沈んでいく。ふかく、ふかく、息もできないほどに、沈んでいく。苦しくて、口を開けば楽になるかも知れない、と楽観してごぽり。酸素が丸い風船となって遠のいていく。途端に堰を切ったように昨日食べた夕飯のメニューだとか、一年前に財布を落として自棄になるなったことだとか、五年前に初めてできた恋人に捨てられたことだとか、急に思い出されて、終いには小学生のとき読書感想文で表彰された記憶までもが思い出されるものだから、ああ、これはきっと走馬灯なのだな、と悟った。なるほど、人間はこうして死の間際に記憶の海に溺れて一度死ぬのか。一人さみしく納得して目を閉じた。

5/13/2025, 4:25:15 PM