#二次創作 #呪術廻戦
「最期くらい、呪いの言葉を吐けよ。」
そう言って、傑はふっと顔を綻ばせた。
…あぁ、遂にその時が来たのか。
目の前の傑は、今までに見たことのないような穏やかな表情で微笑んでいる。僕が腕を上げ掌印を結ぶと観念したように目線を下におろし、静かにその時を待っていた。
体を纏う呪力を丁寧に指先に集めると、ジュクジュクと皮膚が波打つ。
なるべく苦しまないように。安らかに逝けるように…。
極限まで高められた呪力は指先で眩い光を放ち、ピリピリと焼いたように熱く、指と指が触れると、微かにジジジ、と音がした。
一点に集中し、狙いを定めたその瞬間。
──────
世界は一瞬にして漆黒に変わっていた。
光も、音も、時間も存在しない、その空間に僕はただ茫然と立ち尽くしていた。
「やだ、やだよぉ!やめてよぉ!」
ふと気が付くと、足元で小さな男の子が目から大粒の涙をこぼし、僕の服をギュッと掴みながら懇願し、泣き喚いていた。
「おねがいだから…そんなことしないでぇ…。」
涙が溜まって視界がぼやけているのだろうか。男の子は焦点の合わない淡いブルーの瞳で必死に僕を見上げている。
同時に背中に鈍い衝撃が走る。
「お前がもっと早く気付いていたらこんなことにはならなかった。」
僕の後ろで絞り出すようにそう言うと、ドン、ドン、と更に二度背中を打ち、ずる、と地面に崩れ落ちていった。
「全部お前のせいだ…。」
──────
あぁ、これは僕の心だ。
本当は傑に死んでほしくない。一緒に罪を背負って生きていきたい。
殺したくない。生きていてほしい。
…だけどそれはできない。もう戻れないんだ。
僕は目を見開いて漆黒の世界の外に意識を集中させ、結んだ掌印にグッと力を込め直した。
「うぁああん、やだよぉ!殺さないでよぉ!」
小さな僕がやだやだと地団駄を踏み号泣している。
後ろでは声を上げることもなく、何度も何度も地面に拳を叩きつけている僕がいた。
心と心が交差する。
誰にも言えなかった、無かったものにしていた感情が溢れ出し胸の奥を刺す。ぐらりと揺れる心に蓋をするように、僕は指先から呪力を放った。
──────
バシュッ
乾いた音が鳴った瞬間、そこにいたはずの二つの影は消えていた。
僕はゆっくりと歩を進めると、たった今、自分が殺した親友の前に座り、ひんやりと冷たくなった手をそっと握る。
「僕が死ぬまで…あっちで待っててよ。」
そう言うと堰を切ったように溢れ出した涙が止まらない。
またね、傑。またね、僕。
そう心で呟き、そっと目を閉じた。
12/12/2023, 2:23:22 PM