学生の話
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…頭が痛い。
天気が悪いかと言われれば少し悪いかもしれないが、それが原因では無い、と思う。
薬を飲んでも余計睡魔がやってくるのはごめんだ。
(眠…今ならアスファルトの上でも寝れる自信ある…)
期末テストでギリギリ赤点セーフになったと安堵していた私に舞い込んできた、仰天ニュース。
【単元テストの結果も別で追試をする】。
期末だけに全精力をつぎ込んだ私、大敗の巻。
これを乗り越えなければ、春休みも返上しなければならないという最悪の事態が待ち受けていた。
そしてこの春休みは、私にとって人生の最高点と言っても過言ではなかった。
(絶対…先輩とデート行って…彼女の座をゲットするんだ…)
この言葉を昨日の夜勉強しながら呪文のように唱えていた私。はたから見たら何かの霊だったと思う。ここで再追試にならないように睡眠時間を削ってまで勉強した結果、こんな頭痛に見舞われてしまったのだ。我ながら馬鹿でしかない。
今、私は部活の一個上の先輩に一方的な想いをもっている。先輩は私のことを後輩としか思ってないだろうけど、男女混合の部活だしこういう感情が出てきても許して欲しい。
今年で3年生になる先輩は、エスカレーター式の学校である我が校の大学に行くみたいだし、よく言う「勉強に集中するから付き合えない」なんて返しはそんなに出てこないはず。というか、そんな時期に先輩に突っかかる女にはなりたくない。
今日は追試当日。全力で頑張ろう。寝ずに。
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先生の合図と共に、ペンを置く。
名前は書き忘れてないし、多分大丈夫だろう。
試験の教室から出て、帰宅の準備をする。特編授業の後のこれはさすがに体がしんどかった。
お昼は…ちょっと日差しも出てきたし、外で食べよう。
木の下にあるベンチで一人お弁当を広げるのはここ一年で慣れてしまった。友達というよりクラスメイトと言った方がしっくりくるぐらいの関係性で、お弁当を一緒に食べるというのは何となくハードルが高いと思ってしまう。
先輩と一緒にいるのもあんまり無いしなぁとぶつぶつ呟きながら、お弁当の蓋をぱかっと開ける。色は茶色でも気にしない。
いただきます、と一人でも礼儀良く食べるのは、少しでも自分磨きをしたいという心の現れなのかもしれない。
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…知らないうちに寝ていたのだろうか。
目を覚ました私は、学校のベンチではなく公園のベンチに座っている。服も制服ではなく、ちょっとオシャレな私服だ。しかもお昼だったはずなのに夕方になっていて少しパニックになる。
これらの辻褄を合わせるには、ひとつしかない。
(これ、夢か)
言わゆる三人称視点で自分の姿を俯瞰している私。ちょっと新鮮な気がする。
「ごめん、おまたせ」
「いえ大丈夫です!ありがとうございます」
そう言って貰っているのは自販機で買ってきたであろうお茶。先輩が買ってきてくれているのか?申し訳ない気持ちでいっぱいになる。現に私自身がしてもらっている訳では無いが。
「あのっ」
「…?どうしたの」
「いきなりこんなこと言うのも変かもしれないんですけど、私、先輩のこと…す、好き…なんです」
「!」
「ずっとかっこいい先輩見てて、気づいたら好きで…えっと、良ければ…付き合ってくれませんか…?」
おいまじか。今言っちゃうの?私。
先輩の顔は…
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「ん…」
今なんか変な夢見てたかこれ…。確か、私先輩に告ってたよね。で、答え…
「聞いてないな!?」
一気に目が覚めた。あんなに睡眠不足で頭痛がしていたのに、そんなことを忘れてまで私は先輩のことで頭がいっぱいだった。
春休み、私は先輩とデートに行ったらどうなるのだろうか。告って失敗したら部活が気まずすぎる。
えぇ…と頭をさっきとは違う意味で抱えていると、足元に影が出来た。靴はなんだか見覚えのあるもので。
ふっと見上げると、私の頭を抱えさせている張本人が私を見下ろすように立っていた。
「どうしたの、そんな頭抱えてて」
「いやなんでもないです本当にまじで」
「凄い否定してんじゃん、逆に気になるやつ」
「いやほんとないんで、何も」
そっかぁ、と言いながら先輩は私の隣に腰掛ける。おい、手が触れそうですよ、手が!!
「…先輩こそどうしたんですか」
「あぁ、そうそう」
ばっとこちらを向く先輩。顔が綺麗と言いそうになる口を全力でつむぐ。
君さえ良ければ春休み、どっか出かけない?
「…は?」
「先輩には?はないと思うよ」
「すみません、願ってもない話っていうか」
「ふーん、願ってもない話、なんだ?」
「あっ、えと、その」
何私口走ってんだよ!
先輩ちょっと、にまにまするのやめてくださいよ。
「なんで私なんですか」
「んー?何となく?面白そうだから」
「特に面白くないですよ、私なんて」
可愛いことを言えない私。素直になれないのが悔しい。
でも、そんなことを言っても聞いてくれないのが先輩、なんてことは1年も一緒にいれば分かるものだった。
「出かけるの、いいってことでいい?」
「…好きにしてください」
「ふふ、ありがとね?」
…こちらこそ、とだけぼそっと言うと先輩はすっくと立ち上がって私の元を離れていった。台風みたいだな…
私が見た夢は、正夢となるのか。
あの空気感は避けたいが、とにかく今とは違う幸せな関係性になれるように、私も準備を始めるとしよう。
まずは睡眠不足でできたクマを消すことから。
20250212 【未来の記憶】
2/12/2025, 2:48:31 PM