【巡り会えたら】
「ねぇ、そこの君。ちょっと旅してみない?」
休日の早朝始発の電車
周りは自分とこの男だけだ
「え?」
いきなりのことで思考が停止してしまった。
プシューーーーーーーーー
考える余裕もなくドアが閉まった
降りるはずの駅に降りれなかった俺は仕方なくその知らない人との旅を始める。
「君さ,就活してるんだよね?」
「なんで知ってるんですか。まぁあってますけど」
本当になんでだ。もしかしてストーカー?
どうしよう次の駅で降りるべきだろうか
「やっぱり、勘だけどね。」
男が優しく笑う
「僕のところに来ない?面接だけで試験や資格なんてない」
実のところ就活はうまくいってない。内定ももらえないまま春学期も終盤にかかった。
だから、男の話はとても美味しい。
だが、これ以上に怖いものはない
「なんですか、監禁したり実験したり、売ったりするつもりですか?」
男がびっくりする
「何言ってるんだよ。怖いこと言うなぁ。そーだなぁ、あ、君はこれから着く駅であるものを見ることになる。それを見て改めて聞かせてもらえるかな?君の意見」
まさか予約なしのインターンがはじまるとは、、
ー〇〇駅ー〇〇電鉄にお乗り換えの方はーー
ついた先で見たものは、
おぼつかない足取りの女性
「お願い、助けて…もう生きたくないの」
近づいてくるその女から思わず逃げる
「なんですかこれ!」
男は何も答えない。
さっきまでポケットに入れていた手を取り出して
女に近づく
だが女は以前と俺の方を見ている
男がそっと女に触れ、囁く
「ごめんね。ここまでよく頑張ったね。お疲れ様。」
初めて女が男を見た。
途端に女の涙がこぼれ、地面に落ちる前に宙に消えた
「え、殺した…?んですか…?」
死体なんてないし、何より見えるところに駅員がいた。
防犯カメラにもバッチリ映っているはずだ。
「違うよ。これは残像。
今はもう亡くなった人達の思い出が切り取られて残像になって見えてる、感じかな。」
「でも会話が…、」
「あれはね、僕の能力。切り取られた思い出の残像に関与できる、つまり過去の彼らに話しかけられる。そしてこの世から消すことができる
彼女は苦しみながら亡くなったんだろうね。だから助けてなんて言ってたんだろう。」
つまり女性はこのホームから自殺した…そういえば、先月この駅で人身事故があったそうだ
納得できるようなできないような。
「なるほど…だから話しかけるまで女性はあなたを見れてなかった。」
「そう言うこと」
「でもなんで消してるんです?」
あ、と思い質問する。
「思い出がここに在る以上彼らは転生することはできないんだ。まぁだからみんな前世の記憶とかないんだよ。」
前世の記憶がないのはそう言うわけなのか
「なるほど」
「それで、君は興味ある?」
そうだこれはインターン。そしておそらく面接も兼ねられている…どうする俺…
「あ、他に質問とかある?一応判断材料として」
確かにまだまだ決断できない。給料や、能力は後からつけられるのかや……
とりあえず聞けるだけのことを聞いた。
「なるほど、残像は死ぬ前のものだから死んでるなんて知らないのは当たり前ですよね。」
つい焦って変な質問もしてしまったが、まぁ大丈夫だろう
「意欲的で結構。それで?どう?」
これで内定、いや、職が決まるのなら…!
息を呑む。本気の声で、言おう!
「あ、あのーーー!」
「ごめんね、ここで君の旅は終わりなんだ。」
え?
今日2回目のビッグハテナだ
「何言ってるんです?これって面接とかじゃ…」
まさか、騙されてた?いや、初めから旅って言ってたから…
「ごめんね、遊んでたわけじゃないんだ。もしかしたら思い出してくれるかもって…
君は、僕の大切な親友だから」
男の手が涙を伝う俺の頬を触る
それはとても温かった
まるで、以前も触れたことのあるような手と体温
そうだ、あの電車は彼と出会った始まりの場所だ
10/3/2024, 2:28:08 PM