へるめす

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女は言った。最近よく見る夢がある、と。
家の中にいるのだが、少し床から浮いて立っている。そして、ゆっくりと窓の方に近付いていく。
カーテンを開けると、外が明るいのか暗いのか判然としない。視界の端の方と、それから奥の方はひどくぼやけて輪郭が覚束ない。
部屋の中には風が吹き込んだらしいが、女の身体にはそれらの感じが判らずに、ただ気配だけが見えている。
そんな雰囲気が不思議と心地好く、決まって寝覚めはいいらしい。

男は言った。最近よく見る夢がある、と。
街を歩いていると、何処からか呼ぶ声がする。何を言っているのか、はっきりとは判らないが、その指示するところに従ってみようと感じる。
すると、身体が浮き上がった。内部から次第に透き通るような気配が兆す。
透明になった男は、何処かから牽きつけるような力を感じる。そのまま身を任せると、或る家の窓へと至った。
目が覚めると、必ずそれらの感覚が、部分の硬直になって現れていると言う。

以上は、わたしの知人――知人たちは互いに面識はなかった――から同時期に別々に聞いた話である。

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風に身をまかせ

5/14/2023, 11:53:11 PM