作家志望の高校生

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数回手元の液晶画面をタップして、投稿を完了する。少し胸元の開いた服を着た、首から下を写した自撮り。可愛子ぶった文言とともにネットの海に放り出せば、欲望を隠しもしない見知らぬ人から反応が来る。
「こんな貧相な男の体なんて見て何が楽しいんだか……」
若干嘲笑うような調子を含んだ冷笑。自分の投稿に群がる男達を馬鹿にしているが、その反応欲しさにこんな馬鹿げた投稿を繰り返す自分も馬鹿だ。俺は別に男が好きなわけでもないし、そういう趣味は一切無い。
にも関わらずこんなことをしているのは、偏に誰かに構ってほしかったからだ。初めは首元や脹脛なんかをちらりと写すだけだった。けれど、面白いくらい貰える賛辞の声に、段々エスカレートしていった。要するに、調子に乗りすぎたのである。
「ねぇ、これ君だよね?ねぇってば。」
因果応報。そんな言葉が脳裏をよぎった。スマホを持つ手が思わず震える。目の前の男が持つスマホの画面に映った投稿は、間違いなくさっき俺が投稿したもので。背筋を嫌な汗が伝い、普段は人に憎まれるほどよく回る頭と舌は凍りついて動かない。
その男に引きずられるままに連れ込まれた店は、意外にも落ち着いた雰囲気のカフェだった。俺は正直拍子抜けした。でも、あまりに自然で、逆に妙な違和感を覚えたことを、その時は深く考えなかった。
話してみるとそいつは案外いい奴で、件の投稿も、俺が大学のトイレで撮影したためバレたらしい。確かに、同じ大学に通う者ならばギリギリ分かるかもしれない。
最悪な出会いの割に仲良くなった俺達は、一緒に過ごす時間も増えていった。大学ではニコイチ扱いされる程度には一緒だった。それで、ある日俺はそいつに愚痴に近い相談を持ちかけた。
「そうそう、この……こいつ。ネットストーカーっていうの?」
彼とと出会ってからも、俺の悪習慣は直らなかった。相変わらず際どい投稿を続けている。しかし、彼と出会うずっと昔、それこそ投稿を始めた初期の頃からずっとコメントをしてくる者が一人いた。そいつは所謂ネットストーカーで、最近になっていよいよ住所がバレたのだ。
「え、大丈夫なの?」
「うん。今んとこ何もされてない。」
でも怖いからという理由で相談したのだ。そいつの投稿をいくつか見せて、問題の投稿も見せる。送られてきた住所が合っているのかと聞かれ、合っているから怖いのだと話した。
しばらく様子見しよう、という結論に落ち着き、その日は解散した。
『今日そっち行くね』
夜、問題のアカウントから届いたDMに俺は恐怖を感じ、確実に鍵が閉めてあるのを確認して部屋に引きこもる。時刻はもう深夜だ。彼に助けを求めるのも悪い。
数分後。本当に鳴ったインターホンの音にびくりと体を震わせ、恐る恐るドアスコープを覗き込む。そこに立っていたのは彼だった。
「大丈夫?心配だから来ちゃった。開けてほしいな。」
俺はほっと溜息を吐き、ドアを開け彼を迎える。そこで気付いた。
俺は、彼に家なんて教えていないということに。

テーマ:誰か

10/4/2025, 3:46:33 AM