久住弥生

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帰省ついでに、と、かつての子供部屋の片付けを決意した。
元々、そんなに荷物が多いわけではない。
高校時代を過ごした家ではあるが、居候の身であった自覚はあった。仕事で各地を転々とする母に代わり、家主の叔父夫婦が、自分を我が子のように愛してくれていたのは理解しているし感謝もしているけど、心のどこかで、ここに留まってはいけないのだと、幼心に思っていた。
今でこそ、自分の「実家」はここだな、と自然に思うようにはなったけれど、それはそれ、これはこれ。
いらないものをいつまでもとっておくことはない。

小さい頃の服やらなんやらは、叔母経由で近所に「お下がり」に出しているのであまり残っていないが、高校時代の文房具なんかは、ここで暮らしていた時のままだ。

使えそうな洋服は、一人暮らしのマンションに引き上げようと、開けた衣装ケースの中に、そのセーターは残っていた。

派手な黄色。胸の位置に銀色の糸でワンポイントの刺繍がしてある。袖口がほつれているし、ボタンは落としてつけ替えたものもあって、ちぐはぐだ。

中学3年生の冬、母が私によこしたものだ。なんの気まぐれか、簡単な手紙とセーターだけが、仕事先から送られてきた。

デザインは好みではなかったけれど、多分高価なものだと思う、薄手の割に暖かくて、こればかり着ていた。
流石に目立つので、学校には着ていかなかったけど…
そういえば、友達と出かけた時に「そういう明るい色も着るんだね」と言われたことを思い出して、姿見の前に立ってみた。
黒いスカートに、白のブラウス、靴下がかろうじて赤。
黄色のセーターを胸元に重ねてみた。悪くはないか…

少し悩んだが、セーターはゴミ袋に押し込んだ。
今の私には、きっと要らないものだ。



「セーター」

11/24/2023, 1:09:17 PM