月下の胡蝶

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お題《夏》


天井から吊り下げられた朱い金魚風鈴が涼風に泳ぐ。それはひとつではなく、とにかくたくさん。それはどれひとつとして、同じものはない。


歪な美しさ。


私はひとり青い朝顔が鮮やかに咲いた浴衣を纏い、その光景を眺めている。頭にも朝顔の髪留めをし、今日は特別な日だからおしゃれして。



この日のおしゃれは《金魚姫様》のためのもの。


夏の始まりと終わりに行う、鎮魂祭。



風鈴の音が水と、あの人の記憶を運ぶ。



「――ああ恋しや恋し」



蝉時雨が言の葉をかき消して。



私はまたひとつ、ため息をつく。



人の想いがまだこうしてここへ繋ぐ――本当に、想いとは厄介極まりないものだ。


6/28/2022, 12:02:13 PM