・もう一つの物語
〜「空が泣く」より〜
初めて、恋をした。
コロコロ変わる君の表情が、愛しくて。
お日様を集めたみたいな、君の金色の毛が、大好きだった。君のふさふさのしっぽを見ていると、心が洗われる気がした。
君が嬉しいと、僕も嬉しくて、空はどこまでも高く青くなった。
君が悲しいと、僕も悲しくて、空は曇って世界は暗くなった。
堪えきれなくなって君が泣くと、僕も泣いた。雨が降った。
君が、結婚するらしい。僕は嬉しかった。空は晴れた。それはもう、澄み渡る
くらい、青く、美しく。
僕は不思議だった。幸せそうな君が、雨に濡れていることが。
***
幼い頃、私は晴れ女と呼ばれた。遠足も、誕生日も、いつも晴れだったから。
修学旅行の日、友達は言った。
「絶対休んじゃダメよ。晴れてくれなきゃ困るんだから」
休みがちになっていた私への、遠回しな優しさ。
参加するつもりはなかったけど、彼女がそういうなら。軽い気持ちで参加した修学旅行は、最悪だった。私を嫌う人たちと、三日間。
記録的な大雨になった。
私のあだ名は、雨女になった。学校でも、会社でも。空が憎かった。
「結婚式は、晴れるかな?」
愛する人が、何の気無しに呟いた一言。我に返って、私は微笑んむ。たぶん雨だろうな、と思いながら。
私の予想は的中した。
予想と違ったのは、彼の予感も的中していたことだ。
雨。そして晴れ。
キラキラ、キラキラ。
雨粒は無数のスパンコールのように、エフェクトのように、彼の上に、私の上に、降り注ぐ。
濡れて色が変わったドレス。仕方がないから屋内に避難させた豪華な料理。
「いい天気だね」
愛する人は、そう、微笑んだ。
10/30/2023, 9:51:51 AM