ひつじ

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僕は自分でも薄情なヤツだと思う。

学生時代、多くはないものの友達はいた。けれど、卒業してしまえば僕にとって彼らは全員どうでもいいものになってしまう。

若いときはそれなりに悩んだけど、三十も越えると、自分はそういう性質のヤツなんだと割りきれた。

「だから僕は、恋だの愛だのは自分に向いてないと思うんだよ」

君は綺麗だから、他にいい男がたくさんいるよ。
もっと周りの人間のことを大事にできるような、まともなヤツを探してくれ。

「自分みたいな、数人の友達も大事にできないクソ野郎に、恋愛は荷が重いって思ってます?」
「…まあ、」
「だからもっといい男にしなよ、ですか?」
「……」
「余計なお世話です。貴方のことが好きになってしまったのは私なので、貴方は私のことが好ましいか好ましくないかを教えて頂ければ良いのです。」
「…直球だね。」
「変化球は好みませんので。で、どっちですか?」
「…好ましくない、訳、ない」
「貴方はまわりくどいですね。」
「…そうだよ。女々しくて、薄情で、できたヤツじゃないんだ。」
「けど、好きですよ。ヘタレな所も、友達がいない所も、どうしようもない所も好きです。」
「なんでわざわざ、グサッと来る言い方に変換したの?」
「好きな人を虐めたい幼心ゆえですかね。」

わざとらしく意地の悪い笑顔で、差し出された自分のそれよりも小さな彼女の手。

爪の先まで整えられた女性らしい薄い手が、僕には強力な引力を放っているように感じた。

「とりあえず、手を繋いでデートから始めませんか。」

僕の女々しい言い訳をいとも簡単にねじ伏せる彼女の手は、しばらく繋いでいたい。
初めて、そう思った。

12/10/2023, 7:25:00 AM