※BL描写
「ね、俺たち仲間じゃないすか」
にかっと屈託のない笑顔を見せる彼の言葉に、胸の奥が苦しくなった。自分を慕ってくれていることへの喜びと、それから飢えである。
「ん、そやな」
目を見ていられず視線をそらした。さっさときがえを終わらせてしまおうとする自分に、彼の視線が向けられたままである気配がする。
普段ならばこちらから尋ねてやるが、今はあまり彼と話したい気分ではなく、放っておくことにした。
荷物の片付けも終わって、鞄を手に取る。彼の目は見れないまま扉の方へと向かおうとした。
「じゃ、また明日も」
頑張ろうな、と言う前に、彼に腕を掴まれた。
「なに?」
「なに、じゃないっすよ。さっきから俺のこと無視して」
新人の頃にかわいいかわいいと甘やかしたせいなのか、少しの間構わなかっただけであるのに彼は不満げに口を尖らせている。
「無視なんて」
「してますよね」
畳み掛けるように詰られ、二の句がつげない。
「俺のこと、仲間だと思ってくれてないんすか」
言葉尻にほんの少しだけ傷ついたような色が見えて、思わず声色を強めて反論した。
「そんなわけあらへんよ」
そこでようやく彼の顔を見上げた。幼げな顔立ちに不安が浮かんでいる。
「じゃあ、なんで」
態度がおかしいのは分かっている。でも言えるわけがない。お前と、仲間同士、先輩と後輩、それ以上に親密になりたいだなんて。
「……仲間だけなん、足りないんやもん」
え? と戸惑う彼の手からするりと逃げ出し駐車場へと足早に向かう。しかし、後ろから慌てた足音がどんどん近づいていた。
この気持ちを話したくない。それなのに、彼に捕まって、詰問されて、心を暴かれてしまいたい。
その感情を見つめているうちに、腹のあたりにがしりと太い腕が回って、背中から体温に包まれた。
「仲間の他に、何がほしいんです」
荒い呼吸の間に耳元で囁かれて、もう形ばかりの抵抗をやめた。
12/10/2023, 2:40:00 PM