ㅤ迎えに来てくれた吉村という男は、目に付いた中華屋に私を誘い、苦手なものはないかと形だけ確認して、醤油ラーメンのチャーハンセットとギョーザを二人分注文した。奥のテレビでは、ドキュメンタリーが流れている。『ストーカー青年の真実』という美談なのか皮肉なのか分からないタイトルだ。
ㅤ愛と憎しみは似ているんです。僕が彼女に感じていたのは、その両方だったのかもしれません。
ㅤ音声を加工され耳障りな機械音と化した人の言葉が、私の心にすっと染み通った。
ㅤなんで分かってくれないの?
ㅤあなただけは私を分かってくれると思ったのに。
ㅤそう信じていた遠い記憶。
ㅤそんなの愛じゃないと言う人も居るだろうけど。愛や憎しみの対義語は、無関心だから。
「もう行くよ?」
ㅤチャーハンがまだ残っていたけど、私は諦めて席を立つ。勘定を済ませた作業着の背中に続いて、店の外へ出た。
「ご馳走様でした、すごく——」
「いやいや。なんか、あんま美味しくなかったね」
ㅤ美味しいの定義も、恋か、愛か、それとも別の何かかの定義も、所詮人それぞれだ。
ㅤ自分でなにか決めるのはやめよう。それだけを私は決めたいろんなことを諦めないとろくな事にはならないから。
『恋か、愛か、それとも』
6/5/2025, 9:34:52 AM