初恋だった。一目惚れだった。
その人と出会ったのは入学式のこと。桜の花びらがひらひらと舞い、少しひんやりとした風が吹くなかで、私は校門をくぐった。
真新しい制服に身を包み、体育館で長い話が終わったあとに、その人はやって来た。というより、登壇した。
鋭い衝撃がはしったのはその時だった。ライトに照らされるステージの上に立ったその人は、まるでアイドルのようで。私の心を奪い去るにはあまりにも充分だった。
その人の話が終わったあとも、余韻が忘れられず。どんな人なんだろう、話してみたい、などと淡い願いばかり抱いていた。それが学校のモチベーションになっていたのは言うまでもない。
学校が終わって出ようとしたとき、その人がいた。予想など出来るはずもなく、心臓が高鳴る。頬に熱が溜まっていくのが分かった。話しかけたい、と願っているのに怖い。
なんの接点もない人からいきなり話しかけられたら向こうだって警戒するし、もしかしたら嫌われるんじゃないか、と考えるだけで足がすくんだ。
「お待たせ!」
その声が、ひどく耳に響いた。
「おう、お疲れ様」
その人が、柔らかい笑顔を浮かべて手を挙げた。下駄箱から走ってきたのは息を飲みそうなほどに美しい人。絹のように美しい髪が夕日に照らされている。
やがて二人は一緒に帰っていった。取り残された私はその後ろ姿を眺めているだけ。
あぁ、なんだ……。
その事実がじんわりと胸に染み込んで、思わず涙が零れる。
淡い願いが、水に溶けていった。
2025/02/21
ひそかな想い
2/20/2025, 10:09:05 PM