・踊りませんか?
「僕と、一曲踊ってください」
魔法使いに懇願してまでやってきた、舞踏会。外にはカボチャの馬車。
それなのに…
王子様の顔が、全くタイプじゃなかったら、どうすればいいんだろう…
ごめんなさい?いやいや、じゃあ何のために苦労してここに来たんだよ。
みんな見てるし。
「よ、喜んで…」
分かっていた。ここに乗り込んだとき、その答えは確定していたって。
十二時の鐘に乗じて、理由をつけて抜け出した。
硝子の靴を落としたけど、構っていられない。魔法で作った靴だもの、足なんてつかないでしょ。
その夜、私は泣いた。ナルシストな雰囲気も、高飛車な物言いも、全部受け付けなかった。
やっと、私にも春がきたと思ったのに。なのにこんなのってない。
そんなことより金?もっともだけど、私はヤダ。
ああもう、救いなんてないのね。側には川が流れていた。飛び込んでしまおうかしら…
「やめてください」
え?振り返ると、息を切らした男性の姿があった。王子様が追いかけてきたのかしら。
来ないで、と叫ぼうとして、驚いた。見覚えがあった。私を美女に仕立て上げてくれた、魔法使いさん。
「何か、不具合がありましたか?ぼくの力不足です。お願いですから、早まらないでくださいっ…」
はあはあ息を切らしながら、彼は懇願する。その様子を見ていたら、何だか笑えてきた。なんて見当違い。なんて真っ直ぐ。魔法の効果は切れてしまったけど。
魔法使いさんに、一歩近づく。できる限り、色っぽく。
「ねえ。それなら責任とって、私と逃げてくれない?」
10/4/2023, 11:26:31 PM