つるりとした無機質な光沢がどことなくチープさを醸し出している、何の変哲もないボールペンのその右側で、「メジャーな文具です」とでも言いたげに陳列されていたアルコールマーカーが目に入ったのは、ほんの偶然で。
けれどそれに目を留めたのは今思えば、偶然でも何でもなく、紛れもない自分の意思だったのかもしれない。
仕事中にボールペンのインクを切らしてしまった私はその日の仕事帰りに駅ビルの中の小さな100均に寄り道をしていた。
元々文具に凝るようなマニアでもないし、ましてや仕事で使うような消耗品。「使えて安ければなんでもいい」と、文具売場にたくさん並べてあったうちの一つを色だけ見て適当にかごに放り込んだ。当然、パッケージなんてろくに見ていないので、どこのメーカーを選んだのかも分からないくらい適当だ。
あとはついでに三角コーナー周りの物でも見ようかな、なんて気持ちで文具売場を後にしようとした時だった。視界に『アルコールマーカー』の字が飛び込んできたのは。
僅か2色しか入ってないそれを思わず手に取れば、なんとも言えず懐かしい気持ちがじんわりと胸に押し寄せてくる。そういえば、中学では美術部に入っていたっけか……なんて。
気がつけば、私はアルコールマーカーを幾つかと、100均らしく薄っぺらなクロッキー帳を一つかごに入れていた。衝動買い以外の何物でもない。
けれど、思い出してしまったからには買わねばならないような気がした。
あの何に例えようもない独特なインクの匂いと、それから無邪気に「私はイラストレーターになりたいな」なんて同じ部活の仲間と笑いあっていた放課後を。
ブランクは二十年。
上手く描けるかは分からない。
でも、ほんの少しの画材たちと一緒に帰路に着く私の足取りは、ハイティーンの少女のように軽やかで弾んでいるのだった。
『あの夢の続きを』
1/12/2025, 5:20:10 PM