「他人を巻き込まないで」
多くの人々が他者と自分を比べているものだと知って驚く。
優秀な人を見ても「すごいなぁ。努力したんだな」と思うだけで「それに比べて私は……」とまでは思わない。むしろ何故そこで自分のことが出てくるのかと思うのだ。
「ええ……それって『羨ましい』って思ったことないってこと?」
「あー……どうなんだろう。よくわからない」
同僚に信じられないものを見る目で見られている気がする。
「じゃあ『あの人に勝ったわ、ふふん』みたいなことは?」
「ないかな。そもそも競争したいと思わないし」
まるで宇宙人を見るような目で同僚は私を見ている。いや、だって競争って面倒じゃない?
「あまり人に言わない方が良いよ、それ」
「なんで?」
「多くの人は、他人と自分を比べているものだから。それに、劣等感強い人のなかには『人は人、自分は自分』っていうタイプ見るとイラっとして攻撃的になる人もいるから……」
同僚はため息をついた。
そう言われてみれば、私に対してだけ、やたらと当たりが強く、仕事に支障が出るレベルの嫌がらせに近いことをしてくる同期がいるが……
私のことが気に食わないのは、コンプレックスを刺激されるからってこと?
なんだソレ。知らんがな。自分の心の事情に他人を巻き込まないでほしい。
「まぁだから、あの人には気をつけて」
「あー、うん。ありがとう。大丈夫。レコーダー持ち歩いてるし、言われたこと逐一メモしてるから」
「こわっ」
「いや、仕事に支障出てるし、然るべきところに持っていくには証拠が必要だし」
同僚とのこの会話のあと、同期からの嫌がらせがぱったり止んだ。
まぁ、これで終わりなら、どうでもいいのだけど。
────優越感、劣等感
7/13/2024, 3:56:47 PM