『好き嫌い』 No.85
「もう、これくらいは食べなさい!!」
お皿に一つの塩ジャケがのっかってた。僕は塩ジャケが嫌いだ。ゼッテーに食べてやらん!!
一歩も譲らない僕に母は呆れて、塩ジャケ一つをラップでくるんで冷蔵庫にほおりこんだ。母は怒っていた。勝ち誇った顔で、僕は米をばくばくたいらげた。
夜になり、父が帰ってきた。さっき包んだ塩ジャケも、父が食べるらしい。丁度その話題になったので、僕は机に肘を突いて、1階から聞こえる「塩ジャケ」というワードを食い入るように探した。
「あの子、いつになったら塩ジャケを克服してくれるのかしら…せっかく作ったのになあ」
いや、父が食べるのではない。一口だけ口を付けたのだから。それに、父も二つもいらなかったらしい。つまり、捨てるってこと。
そういえば、いつしか言ってたな。
「魚も生きていた」って。
僕は、気付けば階段を駆け下り、捨てられそうな塩ジャケをかばっていた。
6/12/2023, 10:20:54 AM