お題《向かい合わせ》
もう二度と逢うこともない。
呼び出された中央の広場。
花売り、レモネード屋さん、飴屋さん、アイスクリーム屋さん、本屋さん。たくさん並んでいる露店から男は――レモネード、飴、アイスクリームを買って戻ってきた。
「……誰がそんなに食べるの」
「オレとお前に決まってるだろ?」
男の反応に思わず吹き出してしまう。それから広場のベンチに座り無言のまま二人で、アイスクリームを食べる。蒼天のサイダー味と月蜜のバニラ味。食べ慣れた味に、思い出す夢。
――お兄ちゃんのお目々、このアイスみたいだねぇ。
――ほんとだな。じゃあお前はこれだな、月蜜のバニラ。やわらかい感じがそっくりだ。
その日食べたアイスクリームは、今までで一番美味しかった。
淡々とレモネードを飲む。
――このレモネード、青いよ?!
――そういうハーブを使ってんだよ。母さんが確か育てたから、見にくるか?
ハーブ畑を見せてくれた。ハーブで作ったという料理をたくさん、食べたなあ。
それから立ち上がって――お互い向かい合う。
すっと手渡されたのは、色とりどりの飴。
「これやる。――じゃあな、祈ってるよお前の幸せを」
…………ぜんぶ。ぜんぶ、おれの好きな味なんだね。
本当は追いかけたい。
――でも。それはもう、おれの役目じゃないんだ。
口の中、深く溶けていくレモネード味。
8/25/2022, 12:36:20 PM