300字小説
未来に賭けて
未だ治療法の解らない病に掛かった君が未来に生命を託して治療用冷凍睡眠に入ったときから僕の心は決まっていた。
国際宇宙開発機構の亜光速宇宙船の試乗員。厳しい倍率と訓練を乗り越え、ようやくその一席を勝ち取った。
実験船に乗り込み、地球を眺める。航海から帰ってくる頃には、地上では数百年の時間が過ぎているはず。その頃には君の治療法が確立し、君はきっと健康を取り戻し、目覚めている……その可能性に賭けて。
出発のカウントダウンが鳴り響く。これで僕は今まで過ごしてきた連綿とした時の流れから離脱する。今日にさよなら。明日は地上では何年後になっているだろうか。
君の笑顔を思い描き、僕はイグニッションボタンを押し込んだ。
お題「今日にさよなら」
2/18/2024, 11:44:27 AM