余・白

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 「七色のともだち」 有馬壮編
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※登場人物

⚪︎有馬壮 アリマ ソウ
(高校二年生/男子/七瀬の幼馴染)
⚪︎七瀬 薫 ナナセ カオル
(高校二年生/女子/有馬の幼馴染)

※これは前回出した「七色のともだち」瀬川編とは違う世界線の、けれど同じ構成で描かれた色違い作品です📕


「七瀬、帰ろう」

振り返った彼女の髪が揺れる、その黒黒とした艶に僕は見惚れている。

「うん、帰ろう」

幼馴染、それ以上でも以下でもない関係性。
変わることのない関係性。
誰も踏み込むことのない関係性。
決してその先には行けない関係性。
恋人になりたいなんて望みはしない、だけど七瀬に恋人ができません様にと心の底から願っている。
七瀬の幸せを純粋に願えない僕は、本当の意味で彼女を愛せてはいないのだろう。詰まるところ、彼女を好きでいる自分自身の方が、よっぽど好きに違いないのだ。

「溶けてるね」

水色のアイスバーを頬張る彼女が言う。僕は彼女の頬に垂れたソーダ味の水滴を見つめていた。僕の手元にある白色のアイスバーは、どうやらドロドロに溶けているらしかった。
どうでもいい。彼女が僕を好きになります様に、彼女が僕を好きになります様に、彼女が僕を好きになります様に。付き合う事を望まないなんて、嘘だ。彼女が僕に抱きついて愛を囁けばいいのに、彼女が僕だけのものになればいいのに。素知らぬ顔でそう望んでいる僕は卑怯で、その心地の悪い罪悪感を持ちながら七瀬の隣平然と歩く。幼馴染の皮を被った化け物である。

「そういえば洸くんがね、私の肖像画を描きたいんだって。それを、次の絵画のコンクールに出展してもいいかって聞かれたんだよね」

眉間に皺が寄る。この世で最も不快な言葉は彼女が口にする「洸くん」である。
彼女の一番は僕なのに、一番近い友達は僕なのに、一番近くにいたのは僕なのに。それでも天邪鬼の僕は微笑みながらありもしない余裕を見せる。

「いいね、きっと素敵に描いてくれるよ」

七瀬は僕の言葉を無視して、アイスの棒を舐め始める。ドロドロに溶けた僕の白色のアイスバーはもはや食べるところがなくなっていた。彼女の呼ぶ「洸くん」を思い出し何度もイラつく。バキッと音を立てて右手にあったか細いアイス棒が折れた。

「機嫌、悪いの?」

もう味がしないであろうアイス棒を咥えながら、七瀬が僕を覗き込む。僕は少しだけ微笑んで、彼女を無視して歩くスピードを少し早めた。





3/26/2025, 12:28:09 PM